こんにちは
今回の覚え書き内容は表題の通りです。
車両をよく観察している人や鉄道模型を趣味でやっている人にとっては度々気付かされる事かもしれませんが、近鉄各線で現役中の各系列・形式には、他車と比較した時の内外装の見た目で似ていたり違ったりする細かな要素が様々にあります。
車両ごとの共通点や差異は、現在に至るまで多様に見つける事が可能です。差異に関しては、他系列間のみならず同一形式間でも色々と存在しています。この違いの発生要因は、車種の違いであったり後の改造によるものであったりと様々あるように思いますが、今回は後者にあたる例として、一般車2610系サ2760形の車内化粧室扉で見られる外観差異についてメモしておく事にしました。
■ 第26〈メモ〉
●近鉄2610系-車内化粧室扉の外観差異
2610系は、長距離運用対応車で参宮急行電鉄時代(戦前)から活躍していた2200系の代替や都市通勤圏内の拡大に伴う輸送面でのサービス向上等を目的として1972年度後半に投入された一般車(急行車)です。この約1年前には近鉄一般車で最初の冷房付き車両となった2680系が、さらにその約1年前には日本で最初の片側4扉・オールクロスシート車両となった2600系が製作されており、2610系は、これら2系列の使用実績を踏まえた量産車として冷房付き・片側4扉・オールクロスシート車両のスタイルで製作されています。
1編成辺りの両数は、2600系が2連と4連の2種、2680系が3連のみとなったのに対し、2610系は全て中間T車を含んだ4連での竣工となりました。先に登場した2600系と2680系は、共に車内サービスの試作車両という事もあってか、製造は第1陣のみの1回に留まっていますが、両系列の量産車となった2610系は、約4年に渡って増備が続けられており、期間内で計68両(17編成)が製造されています。竣工した車両は、戦前・戦後に製造された旧性能車の代替・転用を目的として大阪・名古屋線に順次配置され、第1陣の登場から間もなく50年が経過する現在でも、全編成が概ね当初からの配属線区を維持して活躍中です。
さて、そんな2610系ですが、近鉄一般車としては一定程度の両数が製造された系列であるため、製造段階での仕様変更のほか、後の改造による形態差も多様に存在します。同系全体で波及した大きな改造の1つには、車内からオールクロスシートのスタイルを廃してロングシートを導入するというものがありましたが、長距離運用に対応した車両とする点は維持され、中間車であるサ2760形の1位寄り車端部には登場時から現在まで車内トイレ(化粧室)が常設されています。今回の〈メモ〉では、この化粧室に関して、後の改造で発生した化粧室扉の外観差異を推測も交えつつ書き残しておく事にしました。
化粧室扉といっても、外から見て目立つ部位はそんなに多くありません。1車両だけで見た際、パッと見で目に留まる部位としては、扉の上方から順に「化粧室の文字表記」「打掛錠の表示部品」「扉注意の文字表記」「扉の取手部品」の4つが挙げられると思います。一方、ここに複数車両間で視る比較が入るのであれば、これらに加えて、表記類の有無や設置高さ、扉の壁面柄、取手の外形なども目に留まる差異として認識できるように思います。
今回の〈メモ〉では、複数車両での比較を前提として、表記類と扉取手の取り上げ(上掲画像で丸囲いした部位への着目)を主に最近の化粧室扉の外観差異を取り上げる事にしました。以下、表記類から順に現行で存在する各形態を見ていきます。
まずは表記類ですが、こちらは上方の化粧室案内、下方の扉注意案内の順で詳しく見ていきたいと思います。それぞれが組み合わさった表記パターンは、現行だと大きく5パターンが存在しており、以下ではこのパターン別で該当車両の様相を紹介します。
①「化粧室案内:プレート/扉注意案内:プレート」
-C#2761・2770(2両)
②「化粧室案内:シルク印刷(文字)/扉注意案内:シール貼付」
-C#2763・2765-2766・2771(4両)
③「化粧室案内:シルク印刷(文字)/扉注意案内:プレート」
-C#2769(1両)
④「化粧室案内:シルク印刷(文字)/扉注意案内:無し」
-C#2762・2764・2767-2768・2772(5両)
⑤|⑥「化粧室案内:シール貼付(イラスト)/扉注意案内:無し|シール貼付」
-C#2773-2777(5両)
(以上、2021年度末時点)
①「化粧室案内:プレート/扉注意案内:プレート」
このパターンの化粧室扉を持つサ2760形は、C#2761とC#2770の2両です。壁面柄の差異も考慮するのであれば、それぞれが唯一無二の外観を有しています。
化粧室案内および扉注意案内でプレート持ちの車両は、現行だとこの2両のみです。壁面柄は、C#2761がサンドウェーブ柄、C#2770がグレー系の砂目模様柄となっています。「L/Cカー」改造をされた編成を除く2610系は、A更新の際に壁面の内装材が従来の木目調柄からサンドウェーブ柄へと変更されており、かつてのA更新後(B更新前)におけるサ2760形の化粧室扉外観は、現行C#2661に見られる様子が基本であったと思われます。
なお、「L/Cカー」を除く一般車の内装更新時に砂目模様柄が採用されたのは2001年度からなので、それ以前にB更新を受けたC#2761の壁面はサンドウェーブ柄を維持・それ以後にB更新&再度内装更新を受けたC#2770の壁面は砂目模様柄へと変更されています。多くのサ2760形は、この砂目模様柄への変更時に車内のプレート類を撤去してシルク印刷やシール貼付のスタイルへと変更されており、C#2670のみ化粧室案内および扉注意案内の両プレートが維持となった理由は気になる所です。実情は不明ですが、B更新時もプレートの状態が良好で現役続行になったといった辺りなのかもしれません。
扉に付されているプレートの外観は、↑のような見た目です。化粧室表記のプレートは、従来であれば「便所」と書かれた円形のプレートが付されていたようですが、恐らく壁面をサンドウェーブ柄へと改めた際に現行の多角形のものに変更されたと思われます。同様のプレートは、A更新止まりで引退した12200系の化粧室扉にも付されており、初採用時期は不明であるものの、80年代中盤から90年代前半にかけて(「アーバンライナー」「L/Cカー」以前の内装スタイルに対して)採られた案内プレートと考えるのが妥当であると思います。
続いて扉注意案内のプレートですが、こちらは恐らく便所改修時(A更新と同時実施かは不明)に新規に付されたものと思われます。2600・2680・2610の3系列でトイレ付となった各形式の化粧室扉は、当初より引き戸であった一方、竣工時はレバーハンドルの取手だったようで、現行のスティックハンドルとなったのは、5200系の化粧室を意識した便所改修時だった模様。この際、引き戸であった化粧室扉には、引いた後に手を離した後も自動的に閉まる程度の重みが付されており、この閉扉時の重みに注意(=指や衣服を挟まれないように)する事を喚起する目的で新規取付されたプレートなのだと思います。
ちなみに、この扉注意案内のプレートは、サ2760形の化粧室扉以外に奈良線系統で広幅貫通路を持つ車両の貫通扉でも見られます。ただ、こちらも全ての車両が当初から重み付だったわけではないようで、(大阪・名古屋線系統車を含めて)平成初期までに引退した車両は、重み無しの引き戸のまま(もしくは向かい合う片面の貫通扉を撤去した状態で)廃車となった模様。この重み付引き戸の初出時期は不明ですが、「近鉄電車写真6」や「同写真集8」を見ている限り、8600系のラインデリア非併設車と併設車とで引き戸の形態に違いがあるように見えるので(非設置車である第1次竣工車の引き戸は当初重み無しの様子)、恐らくは1970年代中盤(8000系の先行冷房改造開始時期あたり)なのではないかと思います。
1970年代中盤は、ちょうど2610系も増備が進んでいる時期なので、この時に化粧室扉の方にも重み付引き戸が波及したのかどうかは気になる所です。ただ、時期から考慮するに、当初の重み付引き戸は、化粧室扉が完全に閉まりきっていない場合に発生しうる匂いの対策というより冷房設置に伴う車内温度維持の対策で従来の扉を設計変更して採用した可能性が高いように感じられ、個人的には、当初のサ2760形の化粧室扉は一律でレバーハンドルの重み無し扉を維持していたのではないかと思います。
ほか、関連で触れておくと、ここで取り上げたC2761やC#2770を含む、化粧室内の便器が洋式化されていないサ2760形の表示錠は、現行では全て鍵の操作と内部の空き状況を示す錠前内部のボードが直結で連動する打掛錠となっていますが、これも当初は形態が違っていた模様。現在の錠前は後付けという事もあって、一部の車両では若干ながら取り付け高さが異なっているように見えます。
各車両竣工当初における「空き」状況の表示部は、扉本体ではなく扉横の壁部分に備え付けられており、外から見た扉には錠前の部品らしきものは見当たりません。戸鍵形態は不明ですが、恐らく打掛式と思われ、外見からしてデッドボルトの先端部に空き状況を示す何かしらの目印(EX:先端だけ赤色に塗る等)があったのではないかと思われます。
便所使用の知らせ灯に関しては、当初は外側に露出する形で小形楕円状の装置が化粧室区画の壁に設置されていたようですが、5200系の化粧室を意識した便所改修時に同系と同じ薄形板状の装置となりました。こちらは現在まで全車が同装置を維持しています。
②「化粧室案内:シルク印刷(文字)/扉注意案内:シール貼付」
このパターンの化粧室扉を持つサ2760形は、C#2763とC#2765-2766およびC#2771の4両です。いずれも2001年度以降にB更新&再度内装更新を受けており、壁面柄は「L/Cカー」車内に準じたグレー系の砂目模様柄となっています。
グレー系の砂目模様柄壁となったサ2760形では、従来まで壁面や箱に取り付けられていたプレート類がシルク印刷やシール貼付で代替されており、②に含まれる車両群では、①の車両群で見られたプレート類がそのまま別の代替表記となりました。すなわち、化粧室案内のプレートはシルク印刷による文字貼付に、扉注意案内のプレートはシール貼付になり、他にも近くの貫通路上にある禁煙案内のプレートはイラストシール貼付に、妻面に備え付けられたドアコックの案内プレートはシルク印刷による文字貼付へと改められています。
扉に付されている化粧室案内の文字および扉注意案内のシールは、↑のような見た目です。化粧室案内の方は、従前のプレートであれば「便所(円形)」「お手洗い(多角形)」と書かれていた内容が「化粧室」の表記に変更となり、外国人対策という事なのか、日英2言語体制で「Rest Room」の文字も付記されています。
シールの方は、プレート時代の内容から「扉が自動的に閉まる」旨の案内が削除され、単純に扉の開閉注意を喚起する内容となりました。一部省略の表記に改められた理由は不明ですが、扉に重みがある点は開扉時に必ず意識せざるを得ない事なので、それと連動して「(重みで)扉が自動的に閉まる」事は、敢えて喚起する内容では無かったのかもしれません。そもそも、トイレに急ぐ人がその案内を見る事で注意する可能性も低いような気がします。A更新止まりの12200系には、扉注意案内をプレートからシールに代替した車両がありましたが、こちらも同じ一部省略表記のシールでした。
ちなみに、シルク印刷による文字表記が初出したのは、21000系「アーバンライナー」が最初ですが、化粧室の英語表記は、当初「Lavatory」とされていました。この「Lavatory」表記は、円形プレート時代から用いられてきた案内であり、恐らくこれを踏襲した表記なのだと思われます。表現を「Rest Room」へ改め始めた時期は不明ですが、個人的には、「L/Cカー」で一般車にグレー系の内装が採用され始めた90年代後半なのではないかと思います。シルク印刷による表記で一般車の化粧室扉に「Lavatory」文字が付された事があったのかどうかは気になるところです。
なお、円形プレートにおける「Lavatory」の案内表記は、便器の種類(=和式・洋式・小便器)に関わらず全て大文字でプレートに付記されており、12200系等で見られた洋式便所の案内には、さらに「WESTERN STYLE」の大文字統一表記も追加されています。これは、その後に登場した多角形プレートの洋式便所版でも共に大文字のまま踏襲(日本語の方は「お手洗い」表記の上に「洋式」の文字が追加)されていますが、さらにその後のシルク印刷で「WESTERN STYLE」の文字は消え、「LAVATORY」文字も小文字化されました。この「Lavatory」表記も、その後に表示が傷つくなどした際には「Rest Room」文字のシルク印刷に代替されたようなので、化粧室の案内文字としては過去の表記となっています。
③「化粧室案内:シルク印刷(文字)/扉注意案内:プレート」
このパターンの化粧室扉を持つサ2760形は、C#2769の1両のみです。同車は、2001年度以降にB更新&再度内装更新を受けており、壁面柄は「L/Cカー」車内に準じたグレー系の砂目模様柄となっている車両ですが、①で取り上げたC#2770と同様、従来からのプレートが部分的に残されています。
先にも触れている通り、グレー系の砂目模様柄壁となったサ2760形では、従来まで壁面や箱に取り付けられていたプレート類がシルク印刷やシール貼付で代替するスタイルが基本となっていますが、一部は旧来のプレートをそのまま使用しており、C#2769はその内の1両です。砂目模様柄の壁面で現在もプレートが付くのはC#2769とC#2720の2両で、C#2769の方は、画像の通り、化粧室案内の方のみシルク印刷に変更されています。
プレートが残るC#2769とC#2770で共通している点は、共に2006年度のB更新(&「L/Cカー」車内に準じた再度内装更新の実施)車である事です。実情は不明ですが、この年度に更新が行われた2両はプレート類を残したまま更新完了となったのではないかと思います。C#2769の化粧室案内プレートが変更された具体的な時期は分からないものの、シルク印刷でも表記の代替事例がある事から、B更新後の活躍でプレートが傷んだ際にシルク印刷に変更された可能性は高いと思われます。
④「化粧室案内:シルク印刷(文字)/扉注意案内:無し」
このパターンの化粧室扉を持つサ2760形は、C#2762・2764・2767-2768・2772の5両です。現行での妻面扉の形態としては最も多いパターンの1つとなります。
とはいえ、実態としては、②で取り上げた車両群から扉注意のシールを剥がしただけのパターンです。B更新と同時に行われた再度内装更新に貼付したシールが傷んだ際に、再貼付が行われなかった事で発生した形態だと思われますが、今後も再貼付を行わないという事が続くのであれば、現行②の車両群は、順次こちらのパターンに移行するという事になるのだと思います。
なお、扉注意シールの方が再貼付されず撤去されている一方、化粧室案内の文字は継続してシルク印刷で表記されていますが、こちらも傷みに伴う再度の印刷が行われている模様。④の車両群では、その表記位置の高さ違いが一部で目立っています。②の車両群で見られる高さを通常位置とした時、④に分類した5両間での比較であれば、C#2767とC#2772が通常よりも高めの位置とされています。恐らく、後年に印刷し直した方が高め位置という事になるのかなと思いますが、実情は不明です。
⑤|⑥「化粧室案内:シール貼付(イラスト)/扉注意案内:無し|シール貼付」
このパターンの化粧室扉を持つサ2760形は、C#2773-2777の5両です。扉注意案内の有無や壁面柄を考慮しないのであれば、④に分類した車両群と同数であり、現行での妻面扉の形態としては最も多いパターンの1つとなります。
このパターンに分類される車両群は、化粧室案内の表記が「化粧室」の文字からイラスト(ピクトグラム)に変更されました。2610系で最初にこのパターンとなったのは、2014年度にB更新が完了したC#2775です。この時の同車は、「L/Cカー」の内装に準じた再度内装更新の他に化粧室改修も実施されており、便器の洋式化や内装材・錠前の変更などが行われています。以降にB更新が行われたC#2774・C#2776-2777に関しても、同様工事の実施と共に化粧室扉の案内表記類が変更されました。C#2777は、2015年度より採用の新内装で白色系の壁面柄となっており、壁面柄を考慮するのであれば、こちらは形式全体で唯一の外観を有しています。
扉注意の表記に関しては、④の車両群で見たのと同様、経年による傷みで撤去した後もシールは再貼付しない方向となっているようで、シールがない車両がほとんどです。但し、C#2776は化粧室改修後も現在まで扉注意の案内シールが貼付された状態となっており、ここではシール貼付の有無を基準として、C#2776を⑥、それ以外の4両を⑤の車両群として一応区分する事にします。
化粧室案内表記のイラスト化が初めて行われたのは、特急車21020系の化粧室です。ピクトグラムが採られた理由は不明ですが、21020系では女性専用の化粧室が初めて設定されており、洋式便器を備える男女共用の化粧室と区別する必要から案内表記のイラスト化が試みられたのではないかと思います。この時のピクトグラムは、色付きではない黒単色で表現されており、同系に準じた内装改良を受けたA更新後の21000系も同様に変更されました。このピクトグラムが色付きとなったのは、21020系と同じく女性専用の化粧室が設けられた22600系からで、これ以降、色付きピクトグラムはその後の他系列における化粧室改修完了の際にも採用されるようになっています。
5200系以前に登場した一般車に対する化粧室改修は、90年代から2000年代初頭にかけて5200系・5800系・12410/16010系(化粧室改修後)のスタイルに準じた工事が行われていましたが、2003年度に1200系の2両に対して工事が行われて以降は停滞していました。再開されたのは約10年後で、鏑矢となったのは、2013年度に工事が実施された2013系「つどい」です。この時に便器の洋式化を主とする新しい化粧室改修のスタイルが確立され、そこから同様の改修工事が2610系を始めとするトイレ付形式に対して実施されるようになりました。VVVF制御車以前の一般車で標準だった丸屋根・角屋根車体でトイレを備える車両の化粧室案内にピクトグラムが用いられたのは、現行スタイルの化粧室改修のトップとなった2013系ク2107形C#2107が最初であり、以降は、同様工事を受けた他車にも従来の文字表記を代替する形で付されるようになっています。
扉に付されている化粧室案内のピクトグラムは、↑のような見た目です。一般的な化粧室に用いられているものをそのまま持ってきたという様子で、男性が青色・女性が赤色・両性を区切る線が黒色で表現されています。
シールは、近くから見ると若干の厚みを感じる材質となっており、これまでの黒単色のシルク印刷文字と異なり、目立つ赤青の2色が加わってサイズも大きめなイラストとなった分、遠目から見ても目立つように思います。現在も扉注意案内のシールが残るC#2776では、文字とイラストでの視認性の違いがハッキリする状態です。
なお、上掲したピクトグラムが貼付された化粧室の認識に関する留意点として、現行でピクトグラムが付く化粧室扉は多くが洋式便器を備えた化粧室の扉であるものの、最近は必ずしもそうではないという事が挙げられます。一般車であれば、2014年度以降に化粧室改修(便器[洋式化]や内装材の変更)を受けた車両は、漏れなく化粧室扉にピクトグラムが付されていますが、近年ではそれ以外のトイレ付車両に対しても付されるようになりました。
例えば、当初より洋式便器を有する5820系だと、現行C#5552の化粧室扉は従来からのシルク印刷文字にピクトグラムを併用するスタイルとなっています。その一方、当初から和式便器を有する5800系でもピクトグラムを用いるようになっており、C#5713の化粧室扉では以前までのシルク印刷文字がこれに代替されている事を確認しました。C#5711とC#5712の化粧室扉に関しては、傷みによって消去されたと思われる化粧室案内の文字が消されたままで長らく維持されており、こちらもいずれはピクトグラムの化粧室案内が付くのではないかと思います。
上記の留意点は、今回の取り上げ対象である2610系においても例外ではなく、2021年度末(恐らく五位堂検修車庫への検査入場時)には和式便器のトイレを有するC#2773の化粧室案内が文字表記からピクトグラムへと変更された事を確認しています。
このC#2773の化粧室案内は、変更直前の時点で従来のシルク印刷による文字が既に消された状態で維持されており、代替としてシール貼付による案内が行われていました。なお、扉注意案内のシールは化粧室案内がピクトグラム化される前の時点で既に無く、変更前の段階であれば④に分類できた車両という事になります。とはいえ、他の車両と比較すれば、透明シールの膜が見えたりシルク印刷文字とフォントが異なっていたりと、若干ながら目立つ存在でした。現行の状態でも、ピクトグラムと打掛錠の組み合わせを持つ化粧室扉はC#2773のものが唯一であり、サ2760形の中では異彩を放っています。
個人的には、傷み等でシルク印刷の案内文を消した化粧室扉は、今後C#2773のように文字入りの透明シールで代替するスタイルになるのかもしれないと思っていました。しかし、その当該車がイラストシールで案内する方式へ変更となった事から考えるに、現行のシルク印刷文字付の車両でこれから文字に傷みが出て消すという事になった際には、ピクトグラム貼付のスタイルに変えて文字表記を置き換えていくのかもしれません。また、近年の内装更新車の車内を見れば、機器箱などの案内文はシルク印刷ではなくシールによる表記が基本となっていますし、シルク印刷の案内文というのも現行の残存車が消えれば過去のものになるような気がします。各種の印刷表記類は、それ以前のプレート類と合わせて今からでも記録しておいて損はないように思います。
ちなみに、せっかくなので触れておくと、化粧室内の便器が洋式化されたサ2760形の表示錠は、A-①で紹介した従来の打掛錠が新規の鎌錠へと変更されています。新造一般車の化粧室扉に備え付けとなった錠前は、5200・5209・5213系までは打掛錠・5800系以降は鎌錠となっており、これ以前に登場したトイレ付車両に対する化粧室改修でもこの仕様が踏襲されました。すなわち、90年代に登場時の5200系と同等レベルの水準に改装された2610系では打掛錠が、2000年代前半に5800系(や12410/16010系[洋式化改修])と同等レベルの水準に改装された1200系(や1400系[洋式化改修])では鎌錠が採られています。
その後、2000年代後半からは、5200系列に対してA更新の実施と併せた化粧室改修[便器の洋式化]が行われるようになり、化粧室扉の錠前は当初から付いていた打掛錠が新規の鎌錠へと変更されました。また、近年では、2800系サ2960形C#2967に対して再度の化粧室改修が行われましたが、化粧室追設時に付けられたと思われる打掛錠は新規の鎌錠へと変更されています。鎌錠自体は、同じ種類のものが継続的に採用されており、ここ20年ほどの変更事例から考えても、現行近鉄一般車で化粧室扉に新しく備え付けとする錠前は、5800系で採られた鎌錠が標準となっている事が窺えます。
続いては扉取手です。こちらは、表記類ほど多様なパターンは無く、外側からパッと見で大別するなら2種類の取手が存在します。
2種類の取手は、それぞれ↑のような見た目です。取手を正面から見た際、片方はネジ有り・もう一方はネジ無しとなっています。大きさも異なっており、ネジ有り取手はネジ無し取手よりもほんの一回り小さめです。化粧室扉を外側から見た際、サ2760形でメジャーな取手はネジ無しの方で、現行車で外側にネジ有り取手を有するのは、C#2770・2772・2777の3両のみとなっています。
このネジ有り取手とネジ無し取手は、一枚の化粧室扉にセットで取り付けられているようで、化粧室外側がネジ無し取手なら内側はネジ有り取手・同外側がネジ有り取手なら内側はネジ無し取手となっています。なので、サ2760形における化粧室内側の取手に関しては、先述したC#2770・2772・2777の3両がネジ無し取手、それ以外がネジ有り取手です。
両取手の関係は不明ですが、見た感じでは、ネジ有り取手とネジ無し取手は化粧室扉を隔ててネジで壁面に固定されているのかなと思います。化粧室扉の外側に取り付けるべきとされる方の取手は、大きさ・見た目・現状の数などから判断するなら、ネジ無し取手が該当すると考えられるものの、長らく同じ状態が続いているので、実際はあまり気にされていないのかもしれません。大半の状態とは逆の取付になっている3両の取手が扉の内外で変わった時期は不明ですが、内装更新や化粧室改修といった大規模な車両工事を行った際に入れ替わった可能性が最も高いと思われます。
以上、表記類と扉取手の取り上げを主として最近のサ2760形に見られる化粧室扉の外観差異を取り上げました。2要素のみの着目でも多様な形態分類が可能である点は、これまでに様々な改装を経た2610系の面白いところであり、趣味的な視点で捉える対象としての同系に魅力が詰まっている事の現れなのだと思います。
ちなみに、今回は外からの見た目を主題としたので取り上げる着眼要素からは外しましたが、当然ながら内部にも多様な差異が散見されます。パッと見でも、手摺やプレートの位置、ごみ箱やトイレットペーパーの設置方法、プレートやシール類の有無といった違いを認識する事が可能で、これらの形態差は、時代の移ろいに伴う(?)化粧室内のサービス改善姿勢を趣味者(観察者)の視点から考察する足掛かりとなるようにも思います。
こうした化粧室への着目は、個人的には面白いテーマだと思いますが、その一方で、やはり場所が場所という事もあってか、列車の車内関係を興味の対象とする趣味者を除けば、概して大きく触れられない内容であるように思います。化粧室の変遷や実態が気になる車両は幾らかありますが、これまでに興味の範囲外とされる(話題性や採算性からしても書き残されにくいテーマであった?)事が多かったためか、気になる要素に踏み込んだ文献や資料というのは見つからない事がほとんどです。
近年の近鉄車両であっても概要や詳細が不明である内容は多く、先日に引退した特急車12200系であれば、各年代で行われてきた化粧室改修の内容(洗面周りや化粧室内の様相・設置された便器の材質や種類・明かり窓の小型化/撤去の変遷・換気扇の交換時期など)は情報不足でなかなか整理できずにいます。後からの振り返りをする上でこういう事態に対処するためにも、実車両への関心を拡げる鉄道趣味の分野(いわゆる車両研究)では、広く浅くで興味を持つ幅を拡げておいて普段から断片的にでも記録と情報収集(都度で整理)しておく事が大切になってくるのだろうと思います。
実際に将来やるか分からない後からの見返しを念頭に分野内で広く浅くの興味を持って動くというのは(興味に通じる基礎的な知識と知り得た情報を何かしら整理・分類できる能力が一程度は必要になると思うので)難しい事のように思いますが、私自身は、ブログという形で手軽に文章や情報(資料)をまとめ書ける場を拵える事が出来たので、物書き発信のモチベーションと相まって、興味を深める前段階で何かしら大小のテーマを設定する(見つける)事はやりやすい環境にあるのかなと思えます。このブログで作った〈メモ〉は、そうしたテーマに繋がる情報を個人なりに整理する書き残し場として活用したいところです。
今回の〈メモ〉は、内装の化粧室扉をテーマに2610系へ焦点を当てた内容でした。やや細かい要素への着眼になったかもしれませんが、こうした内容を(出来れば実車への観察を交えて)部分的にでも〈メモ〉として残しておく事自体は、車両に関して情報の参照や振り返りを行う際に少しばかり有意義になるのではないかと思えます。過去の自分の着眼点や気になっていた事を後から見直す事が出来るという点でも書き残しておいて損はないような気はしますし、今後も興味を持てた話題があれば〈メモ〉で取り上げていこうと思います。
今回の〈メモ〉は以上です。
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