こんばんは
今回の覚え書き内容は表題の通りです。
車両をよく観察している人や鉄道模型を趣味でやっている人にとっては度々気付かされる事かもしれませんが、近鉄各線で現役中の各系列・形式には、他車と比較した時の内外装の見た目で似ていたり違ったりする細かな要素が様々にあります。
車両ごとの共通点や差異は、現在に至るまで多様に見つける事が可能です。差異に関しては、他系列間のみならず同一形式間でも色々と存在しています。この違いの発生要因は、車両製造年次の違い(改良)であったり工場入場時の手入れ(部材更新)によるものであったりと様々あるように思いますが、今回は後者にあたる例として、一般車1620系の客室内床面で見られる敷物についてメモしておく事にしました。
■ 第16〈メモ〉
●近鉄1620系-客室内床面の敷物
1620系は、1994年度中盤から1996年度中盤まで大阪線系統へ投入された系列です。位置づけとしては、1430系列の長編成版にあたり、これまでに4両編成5本と6両編成1本が製造されました。いずれの編成も、室内はロングシートにトイレが無い仕様で、普段は大阪線内の短・中距離運用に従事しています。
1990年代に製造された同系各編成は、近鉄車両の中では比較的新しい車両群という事もあってか、現在まで車体更新や大掛かりな改装工事は受けていません。登場時の姿と比較しても、外装面では、塗装の簡易化や転落防止関連の装置が追加された程度の変化に留まっています。
一方、内装面では、時代の下りに併せて若干の改良が加えられており、これまでだと3色LED式の客室案内装置の追設やシートモケットの更新などが行われました。近年では、さらにLCD式の客室案内装置の追設や床敷物の更新が行われており、デザイン・サービスの点で内装は登場時から少しずつ変化しています。
但し、それぞれの追設や更新は、様々な時期に編成別で行われてきました。そのため、内装各要素に反映される仕様や部品の見た目は、改良が行われていく度に編成によって異なるという状態が発生しています。この状態は、要素によっては一時的であったり恒常的であったりしますが、これは、基本的には内装部品の消耗具合と交換頻度に影響されて決まってくるのではないかと思います。
例えば、客室案内装置に関して言えば、その設置時期は、一番最初に追設された編成と一番最後に追設された編成とで約18年の開きがあり、設置する案内装置の仕様も3色LED式からLCD式へと変化しました。こちらは、現在も機種の違いで設置時期による差が反映されており、統一の気配は今のところ感じられません。
一方で、シートモケットの柄に関しては、登場時から採られているモケットのデザインが、2010年代前半から順次コーラルレッド(優先席はグレー)の色調に柄目を出さないデザインへと更新されており、2021年4月現在は全編成のモケットが後者のデザインとなりました。こちらは、客室案内装置と比較すれば消耗が早く(更新する場合の1回あたり費用が安価で)随時交換を要する部品という事あってか、車種ないし系列で全体的に採用される仕様や部品の変化(EX:シートモケットの柄・吊り革の形)が反映され始めて以降は、最終的に内容の統一へ向かう事になるのだろうと思います。
近年になって始まった床敷物の更新に関しては、恐らく後者のパターンに当てはまると思われ、1620系含む比較的新しい系列に関しては、各編成客室内の床敷物が現行で採用されている最新の柄でいずれ統一される事が予想されます。
統一に関する実際の可能性や具体的な完了時期は現時点だと何とも言えませんが、更新前後の状態や状況については統一される前に一旦整理しておこうと思ったので、今回は1620系で現在進行中の更新を事例に、同系車内で見られる床敷物の柄や配置状況について〈メモ〉しておく事にしました。以下、デザインの登場が古い順で床敷物の見た目を取り上げていきます。
まず、登場時から見られる床敷物です。客室内の先頭車前頭部寄りを写すと↑のような見た目となっています。今回着目する床敷物は、画像下部に写っている赤単色の部分です。↑と同デザインの床敷物を持つ1620系は、2020年度より床敷物の更新が進行中という事もあって、2021年4月時点だと1623Fおよび1641Fの2編成10両となりました。
床敷物の他、壁面・天井面の内装材やシートモケットの色を見ても分かる通り、客室内全体は暖色系の色合いで纏められています。1620系の内装各要素で見られる内装カラーの組み合わせは、同系以前に登場した系列でも採用されており、その端緒は1982年度だったようです(既存系列増備車:1200系1205F~・1400系1405F~/新造系列:9000・9200系)。
ちなみに、これに関連した内装カラーの見直しは、1980年度に登場した8810・1400系の天井から始まった模様。当時の新車紹介記事等を見た限り、1982年度に上記スタイルが確立されるまでで一貫して意識されたデザイン上のテーマは「明るい車内」と読み取る事が出来ます(EX:8810・1400…”車両は, より明るく開放感のあるインテリアをテーマに従来のものを見直し, 以下の変更を行った.”[電科-Vol.34 No.6]/9000・9200・6600…”客室内装は, 省エネ時代にふさわしく明るい暖色系のまとめである.”[電科-Vol.36 No.05])。
赤単色の床面に関しては、1982年度の見直し時が初出のようですが、ここの色に赤が選定された理由は不明です。個人的には、暖色系という事を念頭に近鉄一般車の車体色が意識されたのかなと思うものの、実情は分かりません。1982年度に確立された内装カラーの組み合わせは、既存車に対しても、車体更新と併せて行われた内装更新時に順次反映されました。これは、「L/Cカー」や「シリーズ21」で登場した次世代の組み合わせが既存車に対して採られる2000年度まで続いており、これによって大型・中型の現役車から一世代前の旧内装(天井:コルク模様/壁面:木目模様[薄]/床面:茶色)が淘汰されています。
1620系は、「L/Cカー」や「シリーズ21」より前に登場した系列であり、かつ登場してからは大きな改造もないまま活躍を続けてきたため、2020年度より開始の床材更新を受けていない車両の床面に関しては、登場時と変わらない見た目となっています。
床敷物だけに着目すれば、その見た目は非常にシンプルです。床面にこれといった柄が入っているわけでもなく、壁面との境部にある押さえ部品も敷物と同色とされています。また、客用扉周りや先頭車前頭部寄りの多目的スペースに関しては、雨天時のスリップ防止を目的とした機構がなく、車両の進行向きと平行方向には別種類の敷物を合わせた切れ込み(=以下、縫合線と呼称)がありません。
一方、先述してきた通り、2020年度からは従前の床材を更新する編成が登場しました。最初に更新が行われたのは1624F(2020.05)で、以降は[1621F(2020.08)→1625F(2020.10)→1622F(2020.02)]の順で床敷物が交換されています。作業は五位堂検修車庫で行われており、1624Fと1625Fに関しては、床材更新と併せて検査・お色直し等も実施されました。いずれも天井や壁面の化粧板には手が入れられていませんが、床面と壁面との境部にある押さえ部品に関しては、更新後における床敷物の基調色と同色へ変更されています。
更新後の床敷物のデザインは、2015年度に行われた2610系2627FのB更新(=2回目の車体更新)で初出したものと同じです。これ以降に高安検修場で車体更新を受けた大型の一般車の床面に関しては、同編成と同じ床敷物へ変更されてきました。同デザインの敷物が車体更新を伴う事なく既存一般車へ導入されたのは2019年度が最初(=1437系1439F/2020.02)です。現状、同様の交換が進んでいるのは大阪線系統所属車が中心で、2020年度になると南大阪線系統(=6620系6626F~/2020.07~)にも・2021年度に入ってからは奈良線系統(=1252系1277F/2021.04)にも交換編成が登場しました。
1620系の床敷物交換前後の見た目に関して、客用側扉周りを比較すると↑のような感じです。扉含む壁面のフィルムは従来通りですが、一方、デザインが変わった敷物へ交換された床面が乗り込み時の第1印象を大分と変えているように思います。
また、見ての通りですが、一連の床材更新では、全体のカラーが変更(赤色→茶色)された他、スリップ防止機能を持つ床材が各客用側扉と隣接する形で追加されました。ここの床材(=以下、スリップ防止材と呼称)は、その存在を視覚的に明示する目的あっての事か黄色単色とされており、実際、遠目から見てもかなり目立っているように思います。
2610系2627F(B更新後)より採られているデザインの車内床面は、車体両側面を結ぶ客用側扉1か所に着目した時、車両の進行向きと平行方向に存在する縫合線の数から5枚3種の床敷物で構成されていると観て取る事が出来ます。各床敷物は、中央部1枚がドット柄と四角柄を色調の使い分けで混在させたグラデーション模様・両端部2枚が先述した黄色のスリップ防止材で、それらの間に挟まる2枚が四角柄を敷き詰めたといった感じの見た目です。
以下、中央部配置の床敷物とスリップ防止材について、もう少し詳しく取り上げて今〈メモ〉の〆とします。
まずは中央部配置の床敷物です。1枚目が進行方向に向かって平行・2枚目が同垂直の状態で床敷物を写した画像となります。見ての通りですが、四角柄に関しては、スリップ防止材の部分を除いて全体に渡って配置されています。中央部では、薄茶色の四角柄がある状態から焦げ茶色が(下の四角柄が見える形で)配されており、さらに焦げ茶色部の両端をドット柄とする事でグラデーション演出が図られています。他、茶色基調の床面の中においてアクセントとなるような形で、薄茶色のものより小さい四角柄も固まりかつ白色基調で加えられています。
…とまあ、中央部の床敷物の見た目を私の主観でつらつらと書きましたが、B更新を受けた2610系2627F以降で定着している一般車の内装デザインに関しては、現状、RF誌に掲載されている近鉄の記事(=Vol.56 No.11/P56-57)が詳しいです。なので、デザイン側視点での解説が気になる方は、こちらがまず参考になると思います。この記事を読んだ上での私の所感だと、”新規性”をアピールするという点では、従来の単色基調のデザインを遠目からでも判別できる柄入り模様のデザインへ変更した辺りが、基調色の変更と併せて特に意識された要素なのかなと思います。
続いてスリップ防止材です。こちらは他の床敷物と違って特にデザインが意識されている様子はなく、役割を十分に果たす事が重視されているように思います。工夫があるとすれば色ぐらいで、床面の柄には、現行時点で「滑りにくい」とされている部材の特徴がそのまま反映されているのかなと思います。
ちなみに、2610系2627F(B更新済)以降、1620系等で採られたのは黄色のスリップ防止材でしたが、色違いで概ね同タイプと思われるスリップ防止材は、2004年度登場の7020系に採用されたのが最初と思われます。その後、既存車に対する導入も随時進められました。
既存系列への導入は、まず車体更新時の内装更新から行われており、けいはんな線繋がりでの仕様統一や本格採用前の様子見といった目的あっての事なのか、当初は7000系(=車体更新:2005年度)に限定して導入されています。同年度の既存系列増備車では、従前から導入されているスリップ防止材(=同床敷物が初導入された5800系以降、2000年代前半まで採られた凸があるタイプ)の採用が継続されました。
その後、2006年度の車体更新からは、その他一般車系列の内装更新時(=6020系6075F~)にも導入されています。既存系列増備車に対しての採用も同年度から(EX:9020系9031F~・9820系9829F~)です。これらの車両に関しては、黄色版のスリップ防止材が全体採用となって以降、消耗に伴う交換は黄色版で行う事にしたのか、2021年3月に交換が行われた9020系9032Fは黄色版へ変更されています。今後も同様に交換されていくのかは不明ですが、これからの動きには注目したいところです。
さて、このスリップ防止材の配置は、導入当初より漏れなく客用側扉の前とされてきました。5800系以降「シリーズ21」以前に登場したVVVF制御車の先頭車前頭部寄りにある多目的スペースに関しては、側扉前にある敷物を運転室前まで延長する形でスリップ防止材が敷かれており、後年に7020系と同色のスリップ防止材を追設したVVVF制御車に関しても、これと同じ仕様でスリップ防止材が配されています。
この先頭車前頭部寄りのスリップ防止材が他より横長となる仕様は、2610系2627F(B更新済)で初出した床面デザインを採り入れた床敷物更新車でも継続して採られていましたが、2020年度下半期になって改められました。
具体的には、多目的スペースにスリップ防止材を延長する事を止め、代わりに、進行向きと平行方向でスリップ防止材と隣接する床敷物と同柄の敷物を配置する仕様へと変更されています。最初に同仕様となったのは1620系1625Fで、現状、この編成より後に床敷物を交換した車両の多目的スペース部は、全てスリップ防止材が延長されていません。
仕様が変更された理由や今後も同仕様が定着するのかどうかは不明です。前者に関しては、個人的には、床敷物の配置や節約といった事情が今までよりも強く認識されるようになった事が変更の一要因としてあるのかなと思います。このように思ったのは、「シリーズ21」登場前後の車両において見られるスリップ防止材の配置状況が念頭にあります。
「シリーズ21」以前に登場したVVVF制御車群先頭車の車内前頭部寄りにスリップ防止材を配さなくなったのは、比較的最近の出来事でしたが、「シリーズ21」や後年の車体更新時に多目的スペースが設けられた車両の車端部に関しては、当初よりスリップ防止材の配置が扉前だけとされてきました。こちらの車端部は戸袋部と窓を含めて一程度の長さがあるので、床敷物の配置に関しては、スリップ防止材を延長するより通常敷物を配した方がコスト面で安く出来たのかなと思えます。それに対して、VVVF制御車群の車内前頭部は、長さとしては戸袋部のみです。実際の事情は分かりませんが、もしかしたら、変更前の基準は「戸袋部程度の長さならスリップ防止材を延長して対応する」という感じの認識だったのかもしれません。
ちなみに、上記で推測した認識の変化に関して、今後の動きに関心が持てるのが7020系です。同系各車には、5800系以来採用されてきた素材に代わる新しいスリップ防止材が初採用されていますが、本格採用前の試行段階という事もあってなのか、床面のスリップ防止材は登場時より車端部スペースほか座席下にまで展開されています。
後に同じスリップ防止材が採られて竣工した「シリーズ21」だと、座席下や多目的スペースは通常の床敷物となっており、座席下にスペースがあって車内全体にスリップ防止材が配されている見た目は、7020系独自のスタイルとして現在まで異彩を放っています。比較的新しい車両なので、しばらくは車体更新や床材更新もないと思われますが、今後の内装更新で座席下や多目的スペースのスリップ防止材がどう扱われていく事になるのかは気になる所です。
今回の内容は、色々な車両に乗っていく中でふと気づかされるような要素への着眼でした。この手の要素は、すぐ気づかされた時には違和の感覚を強く意識する事が多いのですが、一方で、私個人は「何か他と違う」と認識する事に留まって一旦は感覚の流れを終わらせる事が多いので、その後の比較等を交えた整理を後回しにしてしまう事がしばしばです。
ただ、コロナ禍の今は、在宅であれやこれやと考える時間も確保しようと思えば十分に取れるので、これまでに蓄積された着目要素で書き残しておきたいと思うような話題があれば、また〈メモ〉なり〔雑記〕なりへ反映してみようと思えます。
今回の〈メモ〉は以上です。
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