■記事概要
車両の外観を視る時、見た目の違いとして認識出来る要素は、各部位で多様に存在します。
色々な箇所を観察してみる中、近鉄車両の車体妻面を視ると、屋根肩のRや窓が埋められているか否かといった大まかな差異の他、手摺の数・長さ・形状や配管の位置、配電盤・ツナギ箱・入替用灯具の有無といった細かな違いで、見た目のバリエーションが大分と存在する事に気づかされます。
そうした差異が生まれるきっかけは、増備途中の設計変更だったり、所属先工場の設備を考慮しての事だったりと、様々です。
今回の記事では、車両妻面に見られる様々な差異要素の内、構内入替を想定して設けられた前照灯の有無に着目し、2021年4月1日時点までで竣工した近鉄高性能車を対象として、構内入替灯が設けられて登場ないしその状態へ改造された車両の妻面外観を各所属形式の登場時期別・3編構成でざっと紹介します。
※今回の記事は、「ピロのブログVer2」にて、以下のタイトルで掲載した記事を一部リメイクし、新たな画像や以後の情報を追加した内容です。
・近鉄の構内入替灯付き車両…2018.12.19掲載
■記事本文
こんばんは
今回取り上げるのは近鉄電車。紹介する話題は、現在活躍する近鉄一般車の妻面形態です。
妻面形態といっても、外観のどの部位を視るかでその分類も様々になる事かと思いますが、今回の記事では、構内入替を想定して前照灯が常設された車両に着目し、2021年4月1日時点までで竣工した近鉄高性能車を対象として、その妻面外観を登場時期別・3編構成でざっと紹介します。
以下、高性能車として分類される近鉄各車両の内、中間車妻面に構内入替灯が設けられて登場した車両の妻面周辺外観を登場世代別かつ新しい順で取り上げていきます。
今回は(前編)です。
第20記事目ほか 目次
(前編)…今回記事
1:2010年以降登場の車両
1-2:50000系(モ50500形)
2:2000年代登場の車両
(中編)…第21記事目
3:1990年代登場の車両
3-2:1026系&1620系(モ1096形・サ1196形&モ1650形[2代]&サ1750形)
3-4:26000系(モ26300形)
(後編)
4:1980年代登場の車両
4-1:21000系(モ21200形[1次車]・モ21404形・モ21500形)
4-2:3200系(サ3300形)
4-3:1600系(モ1650形[1次車/初代])
5:1979年以前登場の車両
5-1:800系(ク710形)
(各編共通)
6:リンク集
では、(前編)記事内容に移ります。
※このページ内における「公式側」は、車両に対して[1位 (車両側面) 2位]となっている側の事を指します。反対に「非公式側」は、車両に対して[2位 (車両側面) 1位]となっている側の事を指します。
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2021年現在、近鉄の最新営業用電車は80000系「ひのとり」ですが、同系の8両編成車には当初より構内入替灯付車両が含まれています。
妻面に入替灯が設けられている車両は、8両編成の中間位置に存在するモ80700形およびサ80800形の2両です。お互いが向かい合う面に対して、構内入替灯や入替運転を考慮した窓が設けられています。
普段の2両は、↑のように向かい合わせの連結がされており、構内入替灯付きの顔が営業列車の先頭に出て来る事はありません。とはいえ、構内入替灯自体は遠目からでも垣間見る事が出来ますし、何より、入替用運転台が存在している区画には、ワイパー付きの小窓(正面)や乗務員用の扉(側面)が常設されているので、この2両に何かしらの運転機能が備わっているであろう事は容易に感じ取る事が出来ると思います。
運転区画がある箇所の車内は↑のような様子です。両形式とも運転室にあたる空間はコンパクトにまとめられており、通路を挟んで片方側が専用の区画として常時封鎖されています。サ80800形に関しては、運転区画と反対の区画も完全に封鎖されていますが、ここが封鎖されている理由やここに何があるのかは不明です。
運転区画への出入りは、両形式とも内外に設けられた乗務員用扉を通じて行う雰囲気ですが、窓は車外からの扉に含まれている箇所と妻面部を除いて一切ありません。他は車内からの扉にドアスコープがあるのみとなっています。ここにドアスコープが設けられた理由は不明ですが、これが車内での出入り時に効力を発揮しているとすれば、もしかしたら、ここの区画は、構内入替時の運転用空間のみならず列車運行中における関係者の一時滞在空間としても機能しているのかもしれません。
構内入替灯付き形式の顔については、↑のような見た目です。白色LEDを光源にしている入替灯は、妻面の上部中央に設けられており、その正面向かって右側には、運転室区画および前方確認用のワイパー付き小窓が常設されています。他、妻面には屋根上へ至るための梯子(手摺)や段違いタイプの転落防止幌も常設されていますが、屋根上から降りて来る配管等は無く、全体としてはスッキリした顔つきです。
列車先頭に立つ近鉄車両でお馴染みの列車無線アンテナ(逆L字形)に関しては、この運転室区画の上には設けられていません。他にも現行の先頭車全般に見られる排障装置や前後部一体型の標識灯も省略されており、本線上でこの顔が先頭に立つ事はまず無いと思われます。
一方、本線でない場所では、この顔が面に出る機会があります。8両編成の「ひのとり」は、3本とも富吉検車区所属となりましたが、同所では、時おり編成の分割作業が行われているようです。この分割時には、検車区の都合上、8両編成の状態では出来ない作業(=車輪転削や状態・機能検査など)が行われているものと思われ、ここでの作業に伴う編成分割をスムーズにするためか、両形式で構内入替灯が付く妻面下の密着連結器には、ジャンパ線に代わる形で電気連結器(2段)が設けられています。
他、両形式の運転室区画下には近鉄型ATS(=ATS-SP)の車上子が常設されています。近鉄で構内入替灯付き車両にATSを装備する形態は、従前に新造された同様の車両群には見受けられません。これは、恐らく、構内入替灯付き車両が面に立つ機会を車庫内での移動のみに限定していて、そこでATSを使う機会もないためだと思われますが、構内入替灯付きの「ひのとり」は、当初より車上子が設けられた状態で竣工しました。
とはいえ、モ80700形およびサ80800形で入替灯が付く方の顔には、列車無線アンテナや排障装置や標識灯が設けられていないため、2形式が先頭に立って本線を走る機会はまず無いと思われます。これらにATS車上子が設けられている理由は不明ですが、もしかしたら、構内入替時における安全上の観点から先行的に導入したという事なのかもしれません。
登場以来、長らく近鉄特急のフラッグシップ車両としての活躍が続いている50000系「しまかぜ」ですが、こちらにも当初より構内入替灯付車両が含まれています。
妻面に入替灯が設けられている車両は、伊勢方から2両目に存在するモ50500形です。但し、同形車両の妻面には入替運転を考慮した窓が設けられておらず、同形式と向かい合う2階建て車両サ50400形の妻面には入替灯がありません。
普段の2両は、↑のように向かい合わせの連結がされており、構内入替灯付きの顔が面に出て来る事はありません。「ひのとり」の2形式と違って、運転区画にあたる部分には内外からの乗務員用扉は設けられておらず、屋根上から入替灯がある方の妻面に対しては配管が降りています。
車内に関しては、客室仕切りと妻面の間に若干の空間が設けられていますが、同等車体を持つモ50200形がここに飲料自販機を設けているのに対し、モ50500形では、特に接客関連の設備はありません。通路を挟んだ両側は壁となっており、壁面には幾らか蓋が存在しています。壁の内部には、恐らく、ユニットでの運転に対応する機器類が収納されていると思われ、モ50500形が構内入替等で先頭に立つ際に蓋が開放されるのではないかと思います。
モ50500形で構内入替灯が付く方の顔は、↑のような見た目です。車体に関しては、正面向かって右側に屋根上からの配管・同向かって左側に屋根上へ至るための梯子(手摺)が常設されており、両側にはフルハイトタイプの転落防止幌も設けられています。
入替灯は、妻面の上部中央に設けられていますが、ここの光源がHSBなのかLEDなのかは不明です。私自身、実際にここのライトを点けているシーンは未だ見た事がありません。ただ、この時期の近鉄車両にLEDを光源とする前照灯は普及しておらず、これ以前に登場した構内入替灯付き車両の灯具光源もHSBとなっているので、灯具の使用頻度や交換部品の確保・共通化等を考慮するなら、モ50500形の灯具光源もHSBなのではないかと思います。
列車先頭に立つ近鉄車両でお馴染みの列車無線アンテナ(逆L字形)に関しては、モ50500形全体で見ても設置されているような様子はありません。現行の先頭車全般に見られる排障装置や前後部一体型の標識灯も省略されており、本線上で入替灯が付く方の顔が先頭に立つ事はまず無いと思われます。
他、モ50500形で入替灯が付く方の妻面下および同面と向かい合うサ50400形の妻面下の連結器は、密着連結器とされた上で当初から電気連結器(2段)が常設されました。50000系では、モ50200形とモ50300形との間で母線の引き通しが行われていますが、モ50500形は2パンタ搭載とされて電気的にこれらと独立可能な体裁が採られており、この点は、21020系や80000系(6両編成車)と異なります。
固定編成内ユニット間の電気的な繋がりに関して言えば、頻繁な分割・併合を考慮しなくても良い車両群の多くが(従前の電連装備に代わる形で)ジャンパ線を用いた連結を採る情勢に変わっていた中、この車両群に当てはまると思しき50000系の分割部に対して電連が採用された理由は不明です。21020系や80000系(6両編成車)のように編成内全車を(半)永久連結器で繋ぐ固定編成としなかった点も考慮するのであれば、グレードの高い観光特急であるが故に有事の際の冗長性確保を優先したという事になるのかなと個人的には思いますが、実情は分かりません。
登場以来、長らく通勤形の最新車両群としての活躍が続いている「シリーズ21」ですが、この内、大阪線での急行運用にも対応した5820系2編成には、当初より構内入替灯付車両が含まれています。
妻面に入替灯が設けられている車両は、大阪方から2・3両目に存在するモ5420形・サ5550形の2形式です。但し、編成内他車と同様、車両の妻面には入替運転を考慮した窓は存在しておらず、妻面の見た目としては、屋根上から配管等が降りていない通常の妻面に入替灯が追加された程度といった様子です。
普段の2両は、↑のように向かい合わせの連結がされており、構内入替灯付きの顔が面に出て来る事はありません。入替灯がある妻面の周辺に列車無線アンテナや排障装置や標識灯が存在しない点に関しては上項目2系列と同様ですが、一方で、こちらは収容力を重視しているという事なのか、特急車と違って運転区画が設けられていない点が特徴です。それぞれの室内では、構内入替灯がある妻面のすぐ後ろから客室空間となります。
構内入替に伴う運転設備は、車外へ凸方向に出ている盤(=両形式とも非公式側に常設)の中に収められているようで、入替運転に際しては、この盤の中身と可搬式脱着型の簡易運転器を接続する模様。私自身は、構内で実際に運行されているシーンを見た事がありませんが、制御関係の仕組みや入替前後の流れに関しては、23000系「伊勢志摩ライナー」や5800系「L/Cカー」等で採られた仕様と概ね同じと思われます。
入替灯は、妻面の上部中央に設けられており、その光源は、同系以前に登場した車両群や以後に登場した「しまかぜ」と同様のHSBです。灯具の外観に関しても共通している様子で、見た所、正面向かって右側にライトカバーの固定具・左側に同蝶番があり、ライトの交換ないし点検時には、まずカバーを正面向かって左側へ開扉する流れになるのだと思います。カバーの色は、妻面の車体色と同じです。
〈参考〉…サ5550形C#5552の妻面(1位寄り)を記録した画像が掲載
(MINTETSU teacup AutoPage~鉄道中心の乗り物ブログ/2012.11.14投稿記事)
モ5420形およびサ5550形で構内入替灯が付く方の妻面の上下に関しては、↑のような見た目です。なかなか面に出てこない顔ではありますが、C#5452およびC#5552に関しては、「きんてつ鉄道まつり2012」開催時に五位堂入場中だった都合上、検修庫内で妻面の全体像を見る機会がありました。私は、残念ながら撮っていないのですが、手摺の位置・数や連結器周り・全体外観等が気になる人は、過去の記録なりネット検索なりで参考になる情報が得られるかもしれません。
妻面は、先述した通り、屋根上から配管等が降りておらず、通常の妻面に入替灯が追加された程度といった様子です。非公式側に常設された盤に関しては、妻面に窓が設けられていない事もあって縦長(=床上から貫通路上端まで)となっており、この盤が存在する室内部分には開き戸が存在しています。
妻面下の連結器は、分割を考慮して密着連結器とされており、電連は設けられていません。母線の引き通しは編成全体で行われており(=モ5420形の高圧配管は伊勢方2位寄り設置のパンタグラフから大阪方1位寄り妻面まで引き回されており、入替灯が付く2位寄り妻面には屋根上からの配管が無い)、車両間を結ぶジャンパ線の数は「しまかぜ」に比べると多めです。
ちなみに、近似構成で分割が可能となっている(=編成を構成する全車が半永久連結器繋ぎではない)「シリーズ21」には3220系が存在していますが、こちらは、3200系と同様に将来の8両編成化を見越して(もしくは京都市営地下鉄烏丸線に乗り入れる都合上、或いは両方の都合上)か、5820系と違って全体で母線の引き通しが行われておらず、分割後の奈良方ユニット(京都方)先頭にあたるモ3220形は2パンタ搭載とされています。
また、3200系登場時と異なり、同系竣工時には入出庫場所となる車庫の拡張が進んで構内入替に際して編成を分割する必要が無くなっていた事もあってか、現行の分割部にあたるモ3220形とサ3520形の妻面には構内入替灯が設けられていません。両形式妻面における凸盤の数も5820系(奈良線)や9820系と共通しています。もし、今後8両編成化が行われる運びとなったのであれば、モ3220形および2021年時点での空白1形式に対して構内入替灯が付けられる事はあるのかもしれませんが、現在において、その実現可能性がどれほどのものになっているのかは不明です。
(前編)は以上です。
引き続き、同タイトル(中編)・(後編)に続きます。
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