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車両撮影記 近鉄団体専用車

リニューアルが行われた近鉄団体専用車20000系「楽」(前編)

■ 記事概要

2020年08月14日(金)、近鉄の団体専用車20000系20101F「楽」が内外装のリニューアルを終えて高安検修場を出場しました。今回の更新で、内外装共に従前の仕様や色調が大きく変えられています。

今回の一連記事では、リニューアルを終えた20000系「楽」について、感想・考察も交えながら、高安出場後の目立った動きと今回の内外装更新で個人的に着目できた変化を幾つか紹介します。

扱う内容は前後編に分けており、今回は(前編)です。

(前編)では、リニューアルを受けるまでの20000系「楽」の概要およびリニューアル後の目立った動きについて、2節に分けて紹介します。


■ 記事本文

こんばんは

今回取り上げるのは、近鉄電車。紹介する話題は、団体専用車20000系に関するものです。

同系は、2019年度末からリニューアル工事を受けており、その関係で2020年度開始後もしばらく姿を見せないでいたのですが、3ヵ月程前に一連の更新工事を終えて運用に復帰。現在は、従前の内外装仕様を大きく改めた姿で活躍中です。

今回の一連記事では、このリニューアルに関連した目立った動き(=前編)やリニューアル前後における各形式の内外装変化(=後編)を取り上げます。

第18記事目 目次

【リニューアルが行われた近鉄団体専用車20000系「楽」】


(前編)…第18記事目[今回記事]

1:はじめに

〈参考1〉リニューアル「楽」を紹介している書籍 (2020.11.12時点)

2:リニューアル後の目立った動き

2-1:試乗会・撮影会の実施

―〔参考資料1〕リニューアル「楽」一般試乗会&撮影会の案内プレスリリース

2-2:臨時列車への充当

〔参考資料2〕リニューアル「楽」を起用した臨時列車運行の案内プレスリリース


(後編)…第19記事目[予定]

3:リニューアル後の内外装変化

3-1:外装変化

3-2:内装変化

4:おわりに


共通 …(前編) / (後編)

5:リンク集


では、記事内容に移ります。

※このページ内における「公式側」は、車両に対して [1位 (車両側面) 2位] となっている側の事を指します。反対に「非公式側」は、車両に対して [2位 (車両側面) 1位] となっている側の事を指します。


1:はじめに

近鉄20000系は、20100系「あおぞら」に代わる団体専用車のシンボルカーとして、1990年に登場した系列です。

本題へ入る前に、先ずはこれまでの同系についてざっと紹介します。


20000系の各車は、車両限界を最大限に活用した大きな車体を有している事が特徴で、編成は正面展望を考慮したダブルデッカー構造の先頭車とハイデッカー構造の中間車で構成されています。全体で1本のみ在籍(=以下、編成は20101Fと呼称)の少数派ではありますが、その特徴的な見た目や一般利用で中々乗車機会がない希少性などもあり、決して存在感が薄い車両ではありません。

また、登場と同時に「楽」の車両愛称も与えられており、同車両が充当される列車に対して、「楽号」の名前が付される事もしばしば見受けられます。

〈弥刀/2015-12-09〉
〈長谷寺-大和朝倉/2018-02-26〉
〈石見-田原本/2016-06-26〉

さて、1990年11月下旬より運用を開始した「楽」ですが、その内外装に対しては、長らく大きな改造が加えられる事はありませんでした。

ちなみに、近鉄車両の内外装に対する改造は、特急車や一般車だと、乗客の利用機会の多さや累積走行距離等を考慮して運行開始から20年前後経過した辺りの時期に一度大規模なリニューアルを行う傾向があります。その一方で、団体専用車の場合は、上記2車種と比べて乗客の利用機会や走行機会は限定的です。「楽」のリニューアルが長らく見送られてきた理由は幾つかあるのでしょうが、一つには、他の車種に比べてサービスレベルの向上や車体の補修等を急ぎで行う必要性が薄い事があったのかもしれません。

〈高安/2020-08-21〉
〈河内国分-安堂/2020-08-19〉
〈室生口大野-三本松/2020-08-29〉

登場以来、バブリーな雰囲気を残したまま活躍を続けていた「楽」でしたが、運行開始から30周年を迎える2020年になったタイミングでいよいよリニューアル機会がやって来ました。2020年3月上旬まで団体運用に就いた後、同中旬に高安検修場へ入場した「楽」は、約5か月少しの工期で内外装に対する大幅な更新が行われ、2020年8月14日(金)に同所を出場しています。

この時のリニューアルを以て、20000系「楽」は、内外装各所の見た目や機能が従前から大きく変えられました。変化具合を端的に表すのであれば、見た目の方は内外装の明暗がリニューアル前後で逆転し、機能の方は居住性重視の方向へシフトしたしたと言う事が出来ると思います。

更新工事を終えて高安を出場した後の「楽」は、調整期間を経て8月より運用復帰。ツアー等で使われる団体列車に対して充当が始まった他、9・10月にチケット購入で一般利用可能な臨時列車にも充てられた事は、まだ記憶に新しい所です。デビュー間もなくで様々な乗車機会が設けられた中、私自身は後者を活用する形でリニューアル「楽」への乗車が叶っており、早速、内装と外装の両方を色々と見て回る事が出来ました。


以上の紹介を踏まえ、今回の記事では以下、内外装リニューアルを終えた「楽」について、高安出場後の目立った動きと共に、更新完了後の先頭車・中間車それぞれで個人的に着目できた変化を幾つか取り上げる事にします。


〈参考1〉リニューアル「楽」を紹介している書籍 (2020.11.12時点)

今回の記事は、リニューアルされた「楽」を私の個人的な観点から紹介する事が主ですが、改められた車両の概要や各所外観の詳細を知りたい方は、ここで挙げる2書籍を読まれた方が手っ取り早いと思います。いずれもリニューアル「楽」の写真が表紙です。以下、書評という形でごく簡単に紹介します。

■『鉄道ファン』誌―2020年12月号(Vol.60-No.716)

新車ガイド/登場から30年,団体専用車両「楽(RAKU)」が一新‐近畿日本鉄道20000系リニューアル車

こちらの雑誌では、近鉄の方がリニューアル「楽」の概要を紹介しています。『鉄道ファン』当該号の紹介ページにて、“このように, 公式記事でなければ知り得ない, 数多くの事を読み取る事ができます”と記載されている通り、近鉄側の公式な紹介(見解)が写真と共に掲載されているため、参考に出来る事(EX:各箇所のデザインコンセプト・更新背景)は多いです。概要紹介においては、リニューアル「楽」を取り上げている各誌各号の中で今のところ一番詳しいと思います。特に、内装面のリニューアル概要を知る上では欠かせないです。巻末には先頭・中間各1両ずつ(ク20100形・モ20200形)の形式図・床下機器配置図が付されており、とりあえず持っておく分にも十分良い一冊だと思います。


■『とれいん』誌―2020年11月号(Vol.46-No.551)

MODELERS FILE/近畿日本鉄道20000系リニューアル車“楽”‐30年目に大変身を遂げた団体専用列車

こちらの雑誌では、「MODELERS FILE」という形で外観を主とした紹介が行われています。記事では、リニューアル前後の外観変化紹介を軸としており、登場時における「楽」の外観概要についても併せてそこそこ触れている点は特徴的です。概要紹介は、近鉄側から提供された資料を基に取材写真と組み合わせる形で行われています。『鉄道ファン』誌と比べると、ジャンル的に鉄道模型誌という事もあってか、内装面の紹介(特に内装品の説明)では物足りない感じが否めません。一方で外装面の紹介は詳しく、全体外観に加えて細かい部分の外観(EX:屋根上・妻面)も捉えている他、形式図・床下機器配置図も全車両分が掲載されています。外装面の詳細や変化を意識するのであれば、また更新前後の姿をざっと比較したいのであれば、持っておいて損はない一冊だと思います。

〈参考1〉


2:リニューアル後の目立った動き

車体更新を終えて8月14日(金)に高安検修場を出場した「楽」は、そのまま五位堂検修車庫へ入場。高安を出た時点で未完成状態だった外装の仕上げ等を行い、同17日(月)に同所を出場しました。

この節では、以下、五位堂出場から現在までの間で個人的に着目できた出来事を2項目に分けて紹介します。取り上げる出来事は、一つが試乗会・撮影会の実施、もう一つが臨時列車の運行です。

2-1:試乗会・撮影会の実施

2020年3月から高安検修場へ入場していた「楽」のリニューアルが正式に公表されたのは、同7月中旬です。

具体的には、7月18日(土)付け発表の旅行案内でリニューアル「楽」を起用するツアーの催行予定(=「SUMMER TRAIN 夏物語号」の運行予定)が明らかとなり、続く7月20日(月)付け発表のプレスリリースでリニューアル「楽」の有料試乗会および「楽」の撮影会が案内されました。更新後の全体外観は、後者のプレスに掲載されたイメージ画像で初めて公に出されています。内装の方は、7月下旬に発表されたクラブツーリズムのツアー案内に添付された画像で公となり、この時に展望座席や階下座席の撤去・フリースペースの存在などが明らかとなりました。


〔参考資料1〕リニューアル「楽」一般試乗会&撮影会の案内プレスリリース

リニューアル「楽(RAKU)号」-有料試乗会&有料撮影会

(KINTETSU NEWS RELEASE/2020.07.20付発表)…PDF形式



内外装のリニューアルが完了して高安・五位堂を出場した20101Fは、17日(月)の内に所属先の高安検車区高安車庫まで回送。一日おいた19日には、報道関係者向け試乗会の貸切列車へ充当されています。コロナ禍によって団体専用車両の運行自体も無沙汰の状態でしたが、これがリニューアル「楽」最初の貸切運用(※①)でした。

〈Twitterより埋め込み・引用〉
〈Twitterより埋め込み・引用〉
〈Twitterより埋め込み・引用〉

報道試乗会では、新聞やテレビやネットニュースの関係者はもちろん、鉄道雑誌や地域情報誌の関係者も招かれていたようで、一部は試乗会と並行する形で情報発信を行っていました。室内全体の様子は、先述したクラブツーリズムの案内で判明していましたが、Free-Wifiの存在や各部位の名称・外観など、内装の細かい仕様や機能やデザインは、各メディアの報道によって紹介される形でこの時に明らかとなっています。


※① 8月19日(水)のリニューアル「楽」の動きについては以下の通り。

1:高安車庫出庫 (高安→大阪上本町で回送)

2:午前の試乗会列車へ充当 (往路:大阪上本町→榛原[7025レ]/復路:榛原→大阪上本町[7126レ])

3:午後の試乗会列車へ充当 (往路:大阪上本町→近鉄名古屋[0812レ]/復路:近鉄名古屋→津[0866レ])

4:高安車庫入庫 (津→高安で回送)


報道関係者向け試乗会の貸切列車から運用復帰したリニューアル「楽」ですが、続く21日(金)には一般向け試乗会の貸切列車へ充当されました。

〈松塚-真菅/2020-08-21〉

この試乗会は、リニューアル「楽」の登場告知と同時に案内された有料試乗会です。7月22日(水)午前10時からネット上で始まった募集受付は、コロナ禍でツアー人数が減らされた事もあってか、開始から約10分で満員(キャンセル待ち)となった模様。[大阪上本町-近鉄名古屋]間で「楽」に片道乗車する権利が含まれた試乗会代金は大人10520円と結構いい値段していましたが、好きな人からしてみれば、余程高額でない限り値段は些細な問題なのでしょうね。

有料試乗会では、大阪上本町発の列車に乗車する方をAコース・近鉄名古屋発の列車に乗車する方をBコースとして2回の乗車機会(※②)が設けられており、それぞれ片道約3時間の乗車時間が確保されていました。

ちなみに、当日の「楽」には、大阪上本町に発着するまでの間に限って、両先頭車正面貫通路上部へ「有料試乗会」案内が掲示されていました。報道向け試乗会では掲示の類が一切行われていなかったので、良いアクセントになっていたと思います。


※② 8月21日(金)のリニューアル「楽」の動きについては以下の通り。

1:高安車庫出庫 (高安→大阪上本町で回送)

2:有料試乗会Aコースの貸切列車へ充当 (大阪上本町→近鉄名古屋[0709レ])

3:富吉車庫入出庫 (近鉄名古屋[Aコース終了後]→富吉→近鉄名古屋[Bコース開始前])

4:有料試乗会Bコースの貸切列車へ充当 (近鉄名古屋→大阪上本町[0764レ])

5:高安車庫入庫 (大阪上本町→高安で回送)


運用復帰後、報道向けから一般向けと先ずは試乗会の貸切運用へ充当された「楽」でしたが、23日(日)からは乗客を観光地等へ運ぶ事を主とする貸切運用にも就き始めました。

この手の貸切の初運用は、リニューアル前から「楽」を用いた運行が恒例となっている「SUMMER TRAIN 夏物語号」への充当で、当日は[大阪上本町-賢島]間を往復しています。

〈近鉄郡山-九条/2020-08-30〉
〈新祝園-狛田/2020-08-30〉

その後の29・30日には、[名古屋-京都]間を往復するクラブツーリズムのツアー列車へ充当。リニューアルデビューした8月中には、大阪・名古屋線の他、山田・鳥羽・志摩線や京都・橿原・天理線へ入線を果たした事になります。

また、つい先日10月31日には、奈良線(大和西大寺⇔近鉄奈良)にも入線。現状、貸切運用は少しずつ回復している様子がありますし、今後リニューアル「楽」も少しずつ色んな所にその顔を出していく事になるのだろうと思います。


リニューアル「楽」の登場告知と同時に案内されたイベントには、有料試乗会と併せて有料撮影会もありましたが、こちらは「楽」の貸切列車への充当が再開して少し経つ9月5日(土)に催行されました。内容は、1回辺り1時間半の撮影時間で青山町車庫に留置した「楽」の記録が出来るというものです。

撮影会では、9時から15時までの6時間に計3回の撮影機会(9:00~/11:00~/13:00~)が用意されており、各回100名の計300名を募集。値段は、車庫内での撮影権と記念グッズ2種(ハンドタオル1枚と車両紹介用紙1枚)および指定駅から青山町までの往復切符のセット(&諸税)で10000円前後でした。団体列車の乗車や昼食のお弁当が含まれ撮影時間の長さも多めに確保されていた時代に比べれば、一回辺りの撮影機会に対して支払う対価が格段に高くなった印象です。

参加受付は、有料試乗会と同時の7月22日(水)午前10時からネット上で開始。試乗会が早々と満席になったのに対し、こちらは24日時点で11時からの部が埋まった以外しばらく空きがありました。残りは[13時からの部→9時からの部]と募集が締め切られていったようですが、後者は最後まで空きがあったように思います。とはいえ、かなりいい値段していたにも関わらず人数が集まったのは、試乗会と同じで好きな人からすれば値段は致し方ないで済む問題だからなのかもしれません。撮影会に関しては私もそのクチですが、個人的にはもう少し抑えてほしかったというのが本音です。

〈Twitterより埋め込み・引用〉

さて、撮影会に使用される20101Fの方は、9月4日(金)午前に高安車庫を出庫し青山町車庫へ。この日は、一般向けの有料撮影会に先だって鉄道雑誌等の車両取材が行われたらしく、前項目末で紹介した2雑誌に掲載されている写真撮影日も同日付です。取材終了後は、続く翌5日(土)の撮影会に備えてそのまま青山町車庫で停泊(伊勢方)となりました。

翌日、日が昇って上本町方の車庫線が全て空くと、20101Fは撮影場所へ移動しスタンバイ。有料撮影会は予定通り9時からスタートしました。

〈青山町車庫/2020-09-05〉

4日の天候は曇りでしたが、5日の天気は概ね晴れ。日当たりは、正面が午前から午後にかけて下り方から上り方へ順光、側面が公式側で概ね順光(夏場に限り午後から若干逆光)でした。撮影会中の車庫横を通過する車両は様々で、特に11時からの部に限っては京都発および大阪難波発の「しまかぜ」が通過しています。この時間帯の定員が最初に埋まったのは、日当たりの他、通過列車の存在も意識されての事だったのかもしれません。

1部あたり1時間半が確保された撮影会各回は、青山町に集合し車庫前まで移動した後、車庫入場前に両手へ念入りなアルコール消毒をする事から始まりました。各回中身の流れに関しては、以下の通りです。

まず車庫入場後は、切符類と共に事前送付されていたワッペン色に基づいて2班に分けられ、そこから各班ごとに[公式側側面→伊勢方正面→非公式側側面→大阪方正面]の順で撮影を開始。それぞれ約20分、計約40分の班別撮影が終了した後は、班が関係ないフリー撮影時間となっています。

こちらは約25分確保され、時間内であれば撮影するも休憩するもグッズ販売を見るも自由といった様子で進行。これの終了を以て撮影会はお開きとなりました。最後は自由解散で、車庫を出る際に記念グッズ2種を受け取り、そこから各自帰路へ就くという流れで各回が終了しています。

私は、試乗会の方は見送りましたが、こちらには参加。流れとしては、5年程前に参加した撮影会と大差ない感じです。一方、今回は時間がネックでした。各所の撮影順序をある程度想定した上で臨まないと撮り忘れや記録の不十分に繋がるため、次は時間を特に意識しようと思っています。

〈青山町車庫/2020-09-05〉
〈青山町車庫/2020-09-05〉

撮影会中の20101Fは、両先頭車の前照灯および補助灯をロービーム点灯させた状態で留置。大阪方先頭車であるク20100形には、今回のリニューアルで取り付け可能となったヘッドマークが掲出されていました。デザインは、リニューアル後の運行開始年月が記載された記念仕様です。

他、こちらはあくまでも外観の撮影会という事で、車内への立ち入りおよび内装撮影はありませんでした。


計3回の撮影会が終了した後の20101Fは、その日の夕方に高安車庫まで回送。これを以て、「楽」のリニューアル記念で近鉄が主催した一連の有料イベントは終了となりました。

2-2:臨時列車への充当

「楽」のリニューアル記念となる有料イベント2種が催行されたのは上記の通りですが、再デビュー間もない時期には、お披露目運転とも言える臨時列車も運転されました。こちらを案内する最初のプレスリリースは、有料撮影会が行われる3日前に出されています。


〔参考資料2〕リニューアル「楽」を起用した臨時列車運行の案内プレスリリース

リニューアルした「楽」を臨時列車として運転します~ご乗車に必要な「臨時列車『楽』利用券」を発売~

(KINTETSU NEWS RELEASE/2020.09.02付発表)…PDF形式

好評につき「楽」臨時列車の運転日を追加します~追加分の「臨時列車『楽』利用券」を9月18日から発売~

(KINTETSU NEWS RELEASE/2020.09.15付発表)…PDF形式



この臨時列車の運行をリニューアル「楽」のお披露目運転と表現したのは、同車の利用機会が、リニューアルされて間もない時期に設けられた事の他、気軽な長時間乗車が一般個人かつ安価で可能という滅多にない好条件で設けられた事を考慮しての事でした。

ここでは、臨時列車の詳細に触れる前に、この列車が設定された背景の考察を述べておきます。運行設定と値段設定の事に絞った軽めの内容です。

まず、「楽」の通常利用について整理します。今回の臨時列車は一般客が「楽」に乗車する事を可能としましたが、そもそも近鉄で団体専用車を起用した列車に乗車するには、多人数利用を前提に主催側の立場で貸切るか後援側(募集員)の立場で団体貸切に参加するかの2択を選ぶのが基本となります。特急列車や一般列車のように個人で自由に利用する事は、特別が無い限り叶いません。

今回の臨時列車も、実際は近鉄が運行を主催した団体貸切列車という扱いだったようですが、その利用条件は窓口販売の「臨時列車『楽』利用券」さえ購入すれば誰でも乗車可能というものでした。それ故、団体に縛られない一般個人客の乗車も可能となっています。当然ながら、この列車で「楽」を利用する一般客には、本来なら必要となる主催団体・個人への特別なコネクションが求められませんし、ツアー形式等による様々な付随条件がセットにされる事もありません。こうした事を考慮すれば、この時の運行設定は、「楽」を利用できるという点では、かなりオープンな内容でした。また、「楽」を阪伊間の単なる移動手段として片道単位で活用出来るという点では、一般個人の気軽な利用を可能にしていたと言えます。

他、今回の臨時列車運行に伴って主要各駅の特急窓口で販売された「臨時列車『楽』利用券」は、往復共に一枚単位から売り出され、その値段は大人1枚400円(子ども200円)でした。これは、様々な団体貸切でリニューアル「楽」を活用する際、一人あたりから定額で徴収する利用料金と同額です。

〈「楽」車内/2020-10-25〉

但し、先述した通り、「楽」を利用するには、団体貸切乗車を主催するか後援するかの2択を選ぶのが基本となっています。なので、一回乗車するために掛かる一人当たりの最終的な料金は、企画料金・貸切料金等が加味される任意団体主催の貸切乗車や宿泊・食事等と抱き合わせになった旅行会社等主催のツアー乗車に基づく金額となる場合が大半となり、利用料金以上の値段となってしまう事は避けられません。

一方、この時の臨時列車運行にあたって販売された利用券は、利用料金と同義の切符であり、上記の高騰要素が除かれた上に個人単位の購入も可能とされました。

ここまでの内容を総括すれば、利用料金以外の特別料金不要という値段設定の下、リニューアル「楽」への気軽な乗車が一般個人でも可能な長距離臨時列車を走らせるという運行設定は、中々の破格内容であったと言う事が出来ると思います。

そうして上記の整理と運行時期を踏まえて思ったのが、冒頭のお披露目運転という表現でした。すなわち、リニューアル「楽」が登場して間もない時期において、乗車するための障壁が僅かかつ個人利用を加味した特別料金も取らないという好条件が設定され、その利用も有効な乗車券と利用券の組み合わせのみで可能とされたのは、コロナ禍で団体貸切需要が減った中でリニューアル「楽」を幅広くアピールするお披露目的な意味合いが込められていたからではないかと考えた次第でした。

以上、蛇足でしたが、続いて臨時列車の詳細紹介に移ります。


臨時列車は、最終的に9月・10月の一部土日と祝日に運行する予定とされ、一日あたりの本数は大阪上本町午前発の往路と五十鈴川夕方発の復路で2本設定。今回の臨時列車で特筆すべきはその募集人数で、各列車の座席販売数は、座席定員164人を半分以上減らした70席とされました。コロナ禍でよく言われるようになった“3密”の回避を考慮しての対応かと思われますが、かなり余裕を持った車内空間の提供は、今臨時列車の売りとされています。ちなみに、この前年度に名伊間で設定された同様の臨時列車では、その座席販売数が180席でした。今回の席数70設定はアピールされて当然の付加価値です。

さて、臨時列車に乗車するためには「臨時列車『楽』利用券」が必要となるわけですが、9月2日付プレスリリースで最初に案内された9月運転分の利用券は、全列車まとめて9月8日(火)5時30分から発売されました。

〈Twitterより埋め込み・引用〉
〈Twitterより埋め込み・引用〉

ただ、一般客が「楽」に乗車出来る滅多にない機会かつリニューアル間もない時期の乗車機会という事で、利用券の人気は非常に高かったらしく、12列車分で用意された計840の座席は発売開始から約30分で完売となったようです。この人気具合を受け、近鉄も続く9月15日付のプレスリリースで10月に4日分増便する事を告知していますが、こちらの利用券はさらに凄まじい争奪戦となりました。9月分と違って一日毎に販売された往復分140席は、各日とも大体1~3分内に完売しており、人口がそこそこの地域で特急券売り場の窓口が一つしかない駅だと、早朝に出向いても買えないケースがざらだったのではないかと思います。

結局、前後半いずれの発売時も購入は一苦労といった様子で、実際、私は一度目の早起きで失敗し二度目でようやく入手。一度目は4時30分からの列並びでダメでした。上記の考察で乗車のための障壁は僅かと書きましたが、今回多くの人にとっては、この利用券の入手こそが「楽」の乗車を阻む最大の難関だったと思われます。

発行された横長形状の利用券には、往路復路の乗降可能駅・乗車日程の他、払戻期限・注意事項などが記載。この利用券が保証したのは、指定乗車日の指定臨時列車に乗車する権利で、乗車後の座席指定はありませんでした。車両の売りである展望席や階下空間の滞在には緩い制限が掛けられており、交替利用が促されています。また、利用券1枚につき別にもう1枚発行される横長券には、臨時列車の各駅発車時刻や車内の利用案内が記載されていました。

〈大阪上本町/2020-10-25〉
〈鳥羽[JR線ホームより撮影]/2020-10-24〉
〈宇治山田/2020-10-25〉

9月・10月の2ヶ月間に計10日分設定された臨時列車は、いずれも同じ時刻で運転(※③)されています。一日の流れは高安車庫の入出庫と大阪上本町発着で始終しており、五十鈴川着発前後の空き時間は鳥羽経由で明星車庫に入出庫していました。

停車駅は、大阪線側と山田・鳥羽線側それぞれの発着駅含む3か所設定とされ、臨時列車「楽」は、それ以外の駅を客扱いする事なく阪伊間を走破。体裁としては[大和八木⇔伊勢市]間をノンストップで運転した訳ですが、実際は途中数駅で列車待避や運転停車を行っており、幾つかの列車とは追いつき追いつかれの状態で走行しています。


※③ リニューアル「楽」を起用して9月・10月に運転された臨時列車の動きについては以下の通り。

1:高安車庫出庫 (高安→大阪上本町で回送)

…|高安車庫→弥刀[列車待避]→大阪上本町7番|

2:臨時列車往路便へ充当 (大阪上本町→五十鈴川[6905レ])

…|大阪上本町7番09:28発→鶴橋09:31発→弥刀[列車待避]→大和八木2番10:10発→名張[運転停車]→/

…/→伊勢中川1番[列車待避・運転停車]→伊勢市11:46着→宇治山田11:48着→五十鈴川2番11:53着|

3:明星車庫入出庫 (五十鈴川[往路便充当後]→明星→五十鈴川[復路便充当前])

…|五十鈴川2番→鳥羽6番[折り返し]→宇治山田[運転停車]→明野[列車待避]→明星車庫|

…|明星車庫→宇治山田[運転停車]→五十鈴川2番[運転停車]→鳥羽6番[折り返し]→五十鈴川4番|

4:臨時列車復路便へ充当 (五十鈴川→大阪上本町[7602レ])

…|五十鈴川4番16:34発→宇治山田16:37発→伊勢市16:39発→明野[列車待避]→櫛田[列車待避]→/

…/→東青山[列車待避]→名張[列車待避・運転停車]→大和八木3番18:26着→河内国分[列車待避]→/

…/→弥刀[列車待避]→鶴橋19:16着→大阪上本町7番19:19着|

5:高安車庫入庫 (大阪上本町→高安で回送)

…|大阪上本町7番→弥刀[列車待避]→高安車庫|


ちなみに、臨時列車の五十鈴川の発着時刻は、各方面から来る観光特急「しまかぜ」の走行時刻と重なっていたため、運転中や回送中には各所で幾度か顔合わせする事がありました。

個人的に印象に残っているのは、往路運転終了後の鳥羽と復路運転中の明野での顔合わせです。前者では、鳥羽で折り返し待ちの「楽」と京都「しまかぜ」こと9001レとさらに「ビスタEX」充当の阪伊特急1202レとで「ビスタカー」の3並びが実現し、後者では、「楽」が大阪「しまかぜ」こと7600レを横並びの線上で待避しています。私は最後に「しまかぜ」だけ狙いましたが、同じダイヤで計10日間運転されていたので、これに限らず他の車両との絡みを記録をされた方も多かったのではないでしょうか。

〈大阪上本町/2020-10-25〉
〈大阪上本町/2020-10-25〉

各列車で計6駅設定された乗降可能駅の内、一番停車時間が長かったのは往路の大阪上本町でした。高安から回送され、6941レの発車と入れ替わる形で大阪上本町7番線へ入線した後は、9時28分発まで約20分間在線しています。今回の臨時列車乗車に際しては、ツアー旅行のように特に集合場所は設けられていなかったため、何らかの形で利用券を入手できた乗客は、到着後そのまま乗車する事が可能でした。

〈大阪上本町/2020-10-25〉
〈大阪上本町/2020-10-25〉

今回の臨時列車「楽」へ乗り込む際は、どの乗車駅からでも乗車前の扉前で利用券の確認が行われます。確認場所は2号車および3号車の乗降ドア前で、それぞれの扉前には「楽」入線前から添乗員の方が待機していました。一方、1号車および4号車の扉は、ドアが開いても乗車出来ないよう黄色のプラスチック鎖で封鎖されており、併せて掲示された案内には、当該車両から一番近い号車の扉から乗車するよう促されていました。

乗車は停車時間中であれば自由に可能でしたが、始発駅での「楽」到着後、席の確保や車内撮影等の目的があって早々の乗り込みを希望する場合は、予め乗車目印となるプラカードを掲げた添乗員の前に並び、開扉後すぐに利用券を提示するという流れでの乗車が必要でした。今回の「楽」乗車で集合場所が存在するとすれば、臨時列車の始発駅において入線直前から2・3号車の扉前でプラカードを掲げる添乗員前という事になります。乗降場所に制限があったのは乗車時のみで、降車時はどの扉からも降りる事が可能でした。

〈大阪上本町/2020-10-25〉
〈大阪上本町/2020-10-25〉
〈大阪上本町/2020-10-25〉

乗降扉の他、緩い制限は車内でも数か所に存在しています。階下室・展望席・サロン席の3か所では、滞在面で制限が設けられていました。

まず階下室ですが、こちらは共用利用とされた他、各列車進行方向1番前の車両の扉横階段は入口が黄色鎖で封鎖され、座席スペースの階段利用が促されていました。同じく共用利用とされた展望席も、始発駅発車後しばらくは黄色鎖で封鎖されており、下り列車(6905レ)が俊徳道を過ぎたあたりから・上り列車(7602レ)が伊勢市を出て間もなくから封鎖解除されています。その後は、譲り合いながらの展望席利用が促されました。最後のサロン席については、各列車進行方向1番前の車両に設けられた区画が添乗員滞在席とされ、利用不可とされています。同1番後ろの席については自由利用可能でしたが、私が乗車した時の列車では時間ごとに人が入れ替わっており、若干共用のような雰囲気もありました。

〈「楽」車内/2020-10-25〉

臨時列車運行中の車内行動は、基本的に自由です。飲食物等は事前に持ち込む形ですが、各々が楽しめるスタイルで滞在する事が出来ました。

他、車内アナウンスは停車駅前後で発着内容のものが流された他、添乗員の方による制限区画の解除案内・リニューアル「楽」の紹介・近鉄創業130周年のPR・列車待避や運転停車中に見られる「しまかぜ」等の名物列車案内などが行われています。


以上、感想・考察も交えながら9月・10月に運行された臨時列車を紹介しました。

〈宇治山田/2020-10-25〉

10日程で計20列車が運行された臨時列車「楽」でしたが、結果的にいずれの列車も超人気でした。利用券は、30分で完売した初回販売が一番入手しやすいという状況で、その後は数分完売が常態化。多くの人にとって、今回の利用機会が魅力的に見えた証拠だと思います。

実際利用した立場からしても、400円追加でリニューアル「楽」を移動手段として活用出来るのは非常に得だと感じました。

リニューアル後の車内に対して思った事などは次節で取り上げますが、また機会があるなら、今後も同様設定の臨時列車運行を期待したい所です。




【リニューアルが行われた近鉄団体専用車20000系「楽」】の(前編)内容は以上です。

次回の(後編)記事では、登場時姿との比較も交えつつ、リニューアル「楽」の内外装で個人的に着目できた箇所について紹介します。

今回の記事は以上です。

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このページの内容は以上です。

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近鉄電車が見える家で育った鉄道オタク。車両の差異や変遷に興味あり。鉄道の他に鳥も好きで、最近は鳩に癒される事がしばしば。